上流(鬼の舌震)の様子(仁多郡・奥出雲町)

観察の内容

各地点共通:(川の幅 粒の色・大きさ 流れの速さ)
上流:カコウ岩の観察
カコウ岩の節理の観察(小学生には難しいので大人向け)
流れる水の働き(浸食)の観察

鬼の舌震は、斐伊川の支流である大馬木川にある渓谷で、県立の自然公園に指定されています。

変わった名前ですが、その謂われは何と「出雲風土記」に書かれています。
それによると、「阿伊の里に住む姫を恋い慕った和仁(わに:サメ)が、日本海から斐伊川をのぼり、夜な夜なやって来るようになったそうです。そこで、姫は大岩で川をせき止め、和仁が登って来られなくしました。姫に拒まれた和仁はいっそう姫を恋い慕ったということです。」
この、「和仁のしたぶる」がいつの間にか「鬼の舌震」になったと言われています。

ヘビ ⇒ 大蛇 ⇒ サメ(鬼) と 下流から上流へ 危険な生き物のオンパレードですね!!


鬼の舌震には、川の下手、中程、上手の3カ所に駐車場があります。バスで見学に行くなら、広くてバリアフリーの遊歩道につながっている上手の駐車場(下高尾駐車場)が良いでしょう。駐車場には、トイレもあります。(普通1時間ぐらいは見学にかかると思うので、初めにトイレを済ませた方がベストです)
川の学習を行う秋には、鬼の舌震の辺りではハチがとんでいることも多いようです。救急時の薬品などを必ず持って見学に行きましょう。また、遊歩道の整備はされていますが、ふざけて手すりから身を乗り出したりしないこと等、事前に注意してから見学を始めましょう。

 

さあ、それでは遊歩道を歩いて、川下に向かって下っていきましょう。

少し行くと、道のわきに風化して、黄色っぽく見える岩肌が見えてきました。何気なく見てみると、何と“” が見えるではないですか!

もしや!!
岩肌の一部を拡大してみました。(下に写っているシャーペンと粒の大きさを比べてみてね)やっぱりありました!


「白」「ピンク」「透明」 3つの色の粒です。
それも、辺り一面粒だらけです!!
……と言うことは、この岩肌は、どうやらカコウ岩からできているようです。


遊歩道をさらに進んでいくと、川が近くに見え始めます。でも、何だか様子が変です?? 何が変なのかわかりますか!

そうです。ここは上流なのに、まるで下流のように砂がいっぱいあるではないですか!川底も砂だらけです。(点々と石(岩)もありますが) 河原のようになっているところも砂がいっぱいたまっています。 (中流にも、こんなに砂はなかったです)

川の上流のイメージとは何だか違うような???? なぜでしょうか?

まず1つは、この辺りの土地の様子に理由があります。川の上流は土地の傾斜が急なイメージがありますが、駐車場の辺りから見られる景色は、わりになだらかな土地が広がっていました。じつは、この辺りは 準平原(長い間の浸食削剝(さくはく)を受けてつくられた平たん面)のように傾斜が緩やかな場所なのです。したがって、この辺りでは、流水の3つの働きである 堆積 の働きがかなり大きいのです。

 2つ目の理由は、たくさんの砂を供給するものがあるということです。それは何かというと、そう! カコウ岩 です。 上↑ で紹介した写真のように、この辺りにはカコウ岩がたくさんあります。そして、カコウ岩はとても風化して崩れやすい岩石なんです。(カコウ岩が風化したものを 真砂土(まさど・まさつち) といいます)
カコウ岩は、深成岩であり、鉱物の結晶がとても大きく成長した岩石です。そして、鉱物により熱膨張率が違うので温度差の大きい場所では、結晶()の結合が弱まり風化しやすくなります。(カコウ岩をガスバーナーなどで熱してやると、すぐにぼろぼろと崩れてしまいます!)

 遊歩道をさらに進み下流の方へ向かうと、川の傾斜が段々きつくなってきて、上流の雰囲気が感じられるようになってきました。

つり橋(鬼の舌震橋)の辺りから下手では、大きな岩も増え、流水で浸食された岩が目立つようになります。

川岸の岩が、スプーンですくったように浸食されています。
流水の働きで岩の一部分が削られてもろくなると、そこを中心として浸食が広がっていきます。そのために、半円形の切り口のように岩が削られます。

左の写真は、ポットホール甌穴おうけつ)です。岩が削られて、深く大きな穴が空いているのがわかります。

流水の働きによって浸食された場所(穴)に、石が入ったりすると、水の勢いで石が回転し、さらに岩を削っていくので、このような穴ができます。(きっと長い時間がかかっているのでしょうね)
右の写真も、かつてのポットホールの跡です。昔は、川の水がもっと高い位置を流れていたんですね。
流れる水の働き ~斐伊川たんけんに行こう~ 上流 ポットホール ものすごく深そうです 遊歩道からかなり下なので中の様子はわかりません

また、この辺りからは、さらに大きな転石が目立つようになります。粒径(粒のイメージはもうないが)がかなり大きくなりますね。

10mを超える大きさの“”が、たくさん見られるます。右の岩は、鬼の舌震で最大の“”です。粒径は15mぐらいになります。


遊歩道は、片側が崖の岩肌です。その岩は、もちろんカコウ岩です。そのカコウ岩を見ると、やはり3つのが見られます。

下流の斐伊川河川敷公園でとってきた3種類の小さなを近づけてみると、それらが、もとはこのカコウ岩に含まれていたんだと実感できます


こうしたカコウ岩の崖を見ると、もう一つ気づくことがあります。それは、崖にひび(亀裂)が入っていることです。この亀裂は、 節理 と言います。
カコウ岩をつくるマグマは地下深くで徐々に冷えて固まるのですが、その時、体積が小さくなるため、数m~数十mぐらいの間隔で亀裂が入ります。この亀裂を節理と言います。
この亀裂のため、風化浸食の作用を受けたカコウ岩は、節理面に沿って壊れやすく、四角形に近い形で崩れていきます。(これも、カコウ岩が風化しやすく、砂粒になりやすい理由の一つです)

川の中を見てみると、長方形の箱の形をした岩が落ちていました。これは、カコウ岩節理面にそって崩れて、落下したものです。
この辺りに落ちている岩のほとんどに平らな面が見られ、節理面で崩落したものと考えられそうです。

下流方向の山肌にも、節理が発達しているのを見ることができます。(右の写真)どうやら、この辺りの崖一帯、と言うよりも 山全体 がカコウ岩でできていると言えるようです。(鬼の舌震いの山は全てカコウ岩です!)

鬼の舌震のちょうど真ん中の辺りまでやって来ました。
そこには、畳岩と名付けられた広くて平らな岩があります。
この平らな面、あまりにもきれいなので人が削ったものに思えますが、これは、カコウ岩節理面なんです。ちなみに、この畳岩も遊歩道の一部になっています。この岩の上は一方にしか柵がないので、はしに行きすぎると危険です。(かなり高いし、川の流れは速いです)鬼の舌震観察で一番危ない場所ですので、くれぐれも注意をおこたらないようにしましょう。


おまけ情報
畳岩の近く(清心亭の方)には、実のなる木があります。その実の種は……そう!クルミです。(なっているところってあまり見たことないですよね)

畳岩から上流の方を見た風景です。 これは、下流の方を見た風景です。
大きな岩がごろごろとしています。山の稜線を見ると、この谷がまさしく”V字谷”であることがわかります。 下流にも大きな岩がごろごろあります。中央上に、変わった形の岩が…?

下流方向に見られた変わった形の岩(はんど岩)は、何だか今にも落ちてきそうで不安定な感じに見えます。
遊歩道を通ってはんど岩の方へいってみましょう。

このはんど岩、なんで落ちないのか?見れば見るほど不思議な感じの岩です。

もちろん誰かが(鬼?)この形で、下の岩の上にのせたものではありません。
流水(雨水や雪など)による浸食作用風化作用によって削られて、もっと大きな岩だったものが、たまたまこの様な形になったのでしょう。

もし、地震でもあれば、すぐにも落ちてしまうかもしれないし、反対に50年後でもこのままなのかもしれません。

上部が大きくて、下部はとても小さいです。
下の岩にちょこんとのっている感じです。
横から見るとさらにびっくり!
落ちないのが不思議なくらい細いんです。
天狗橋から、上流側を撮った写真です。
大きな岩が何とたくさんあることでしょうか。これらの岩の形は、カコウ岩節理による平らな面と、流水の浸食による、スプーンで削り取られたような半円形の面とがあわされてつくられた形に見えます鬼の舌震での観察は、この天狗橋までで折り返しとなります。ここから、上流側の下高尾駐車場まで約30分ぐらいでしょうか。景色を楽しみながら気をつけてもどりましょう。

 


では、上流の基本的な特徴をまとめてみましょう。(各地点ごとに共通してまとめています)

下 流 中 流 上 流
川の幅 400m 100m 25m プールの幅ぐらい
粒の色・大きさ(粒径) 白・ピンク・透明 平均5㎜ カコウ 岩 平均10㎝ カコウ岩 平均5m
流れの速さ 歩くくらいの速さ かけ足の速さ 全 力 走
粒の呼び名 石 ・ 岩石 岩(崖・山)

流れの速さをはかるのに、水の流れる音の大きさを比較してみるのも良いかもしれません。下流部と上流部では、流れの音がまるで違っていますよ。

※流れの速さは、上流部では、川の流れと同じスピードで移動することができず、目測で決めています。

以上で ~斐伊川探検に行こう~ は終わりです。

下流中流上流と見てきて、それぞれの地点の特徴がわかったでしょうか。それから、全てに共通する特徴も気づけたでしょうか?

下流で見られる特徴的な砂粒は、斐伊川の上流部のカコウ岩地帯からやって来たものでした。日本でも有数の磁鉄鉱を含むこのカコウ岩のおかげで、古来より出雲地方では製鉄の技術が発達しました。そして、とても風化しやすいカコウ岩からできた大量の砂が、斐伊川(+神戸川)によって下流に運ばれ、長い時間をかけて出雲平野をつくっていったのです。(砂でできている出雲平野、その砂は上流にカコウ岩地帯があったからこそ生まれたのです)

長い時をかけて、斐伊川と神戸川が私たちの暮らす出雲平野をつくってきたのです!